1992-1993|渋谷「固まる絆、気になるウェスタンテイスト」
【 大家族みたいなお店 】

渋谷の店には、いつの間にか後輩のアルバイトが増えていました。

気がつけば、店で過ごす時間が、以前よりもずっと居心地のいいものになっています。

もともと大所帯の店だったこともあって、季節の終わりには社員の異動に伴う壮行会が開かれたり、また、スタッフだけのささやかなクリスマス会が店内で開かれることもありました。

初めて出社した時、颯爽と出勤して来る先輩達を見て、クールで完璧なファッション人に映りましたが、笑顔で楽しんでいる姿を見ると、同じ人間なんだなぁと、ごく当たり前のことに気付かされます。

どこか孤独で張り詰めた空気は、いつの間にか消えていて、気がつけば、店の中にいる時間は、以前よりもずっと居心地のいいものになっていたのです。

 

【 厳しさの正体 】

ある日、社のイベントで帰れなくなったわたしを、一人の先輩が家に泊めてくれました。

彼はアルバイトを始めた頃、いちばん厳しかった先輩社員です。

部屋には、きちんと手入れされた洋服が綺麗に並んでいます。

彼は、ひとつひとつの服について、色の意味や組み合わせ、なぜそれを選んだのかを、言葉にしてくれました。

その話ぶりは、店で見せる厳しさとはまるで違っていて、丁寧で、優しかったです。

細かな内容は、もう思い出せませんが、そのときに感じた熱量だけは、いまもはっきりと残っています。

また、もう一人の厳しかった先輩社員は、音楽が好きで、ファッションとの距離感を大切にしている人でした。

ある夜の飲み会で、照れ臭そうに語ってくれた言葉の断片も、今ではほとんど覚えていませんが、自分の“好き”をどう扱うかについて、強い意志を持っている人でした。

そして、そんな二人には共通点がありました。

それは、店の中では中堅という、微妙な立場にいたこと。優しい性格であるがゆえに、自分を表に出すことが難しかったことです。

わたしたちアルバイトは、そんな事情も知らず、好き勝手に攻めた格好をしていれば、それだけで可愛がってもらえました。

一方で、年長の社員たちは、立場に縛られることなく、もっと自由に自分のスタイルを楽しんでいます。

その狭間にいる彼らは、あえて厳しく振る舞うことで、自分の立場を守っていたのだと思います。

また、厳しさという形は、上への忠誠や誠実さ、下への威厳を保つ術だったのかもしれません。

後に、わたしも似たような立場に置かれることになるので、この時の先輩達の気持ちが良く分かります。

 

【 もうひとりの先輩社員 】

一方で、いつも自然体で、わたしたちの話を聞いてくれる先輩社員もいました。

社員の中では若い方ですが、上の人たちとも対等に渡り合いながら、わたしたちとのあいだをつないでくれる存在です。

普段は寡黙なのに、必要な時に、いつも支えになってくれました。

わたしが会社を去ったあとは、会っていませんが、現在では、管理職になって会社を牽引する立場になっているそうです。

 

【 万能ベストのオルテガ 】

話はちょっと戻って、当時のセレクトショップのあいだでは、一般的にウェスタンテイストが取り入れられていました。

象徴的だったのが、オルテガのベストです。

ニューメキシコ州チマヨで織られたラグを仕立てたその一着で、そのゴツい素材感はどの服にも異質な存在に思えますが、不思議とどの格好にも合ってしまう魅力を持っています。

決して安いものではありませんが、このベストを着ている人は、だいたいどこかのアパレル業界の人でした。

例えば、オルテガのベストに、ヴィンテージの501、足元はポールセンスコーンのチャッカーブーツを履いていたら、あのセレクトショップの人だな?

JMウェストンを履いていたら、ウチの人だな?

オールデンだったら、どこかのセレクトショップか、ビンテージショップのオーナーかな?って感じです。

カジュアルでも、ドレス寄りの装いに差し込んでも成立する、懐が深いアイテムなのと、そのスタイルには“所属”が滲んでしまう面白いアイテムでした。

 

【 ウェスタンテイスト 】

わたしがいた店で、このベストに合わせるのもうひとつのアイテムとしては、ウェスタンブーツという選択肢もありました。

基本はトニーラマのリザードで、三枚はぎが良いとされていましたが、わたしが手に入れたのは五枚はぎです。メーカーもそこに区別はしていないと思いますから、これは単に当たりハズレの問題でした。

さらにインディアンジュエリーを合わせ、ドレスアップする感覚が、当時の気分です。

先輩たちの中には、実際にアルバカーキまで足を運び、ジュエリーを買い付けてくる人もいました。また、年長の社員さんが着けているジェームスリードのシルバーバックルベルトは、確か、サンタフェのホテルでしか売っていなかったと思うので(あと、高価だったので)、憧れのアイテムとなっていました。

ただ、不思議なことに、この頃を境に、わたし自身、少しずつウェスタンブーツを履かなくなっていきました。

それは会社が高学歴の大卒新入社員を入れる方針を打ち出したタイミングです。

何気ない方針でしたが、ここから社内の歯車が少しずつ変化していきます。

大家族のような空気も、先輩たちの葛藤も、流行りの熱量も、どこかで少しずつ、かたちを変え始めていました。

おすすめの記事