1992-1993|渋谷「クロージングと、カジュアルと」
【 部長さんから靴をもらう 】

渋谷のお店に立つようになって、まもなく2年が経とうとしていました。

時々お店を視察に来る社員や上の立場の人達も、元気のいいわたし達アルバイトを面白がってくれて、可愛がってくれるようになりました。

ある日、部長さんが、体の大きいわたしに、「昔履いていた靴をあげるから、本社に取りにおいで」と声をかけてくれました。

その部長さんは、体格も大きく、見た目はどこか安岡力也のような雰囲気ですが、とても優しい人です。

今ではジャケット姿の管理者ですが、昔は上野のアメカジショップから始まったこのセレクトショップの、まさに生き字引のような存在だったと思います。

用意が出来たと連絡をもらい、わたしはすぐ本社に取りに行きました。

箱を開けると、7、8足はあったでしょうか。

トップサイダーのキャンバス地のデッキシューズ。

L.L.Beanのモカシン。

ほかにも名前は知らないけれど、どこかオーラを放つ靴が並んでいます。

その靴たちを見ているだけで、この店がアメカジショップとして始まり、今の商品構成へと変わってきた歴史が伝わってくるようでした。

こうしてわたしは、部長さんの時の一部に、少しだけ触れた気がしたのでした。

 

【 カジュアル店舗に立つ 】

先ほども触れたように、わたしの働く会社は、もともと上野のアメカジショップから始まっています。その移ってきたオリジナルのお店が、渋谷の道玄坂にありました。

ここは、今では定番と言われるアメカジアイテムを次々に輩出してきた老舗ショップでしたが、その後、同じ場所で名前を変えて、カジュアルに特化したお店として営業していました。

しばらくすると、渋谷のお店の向かいの空き地に、どデカいビルが建ちました。「パオ」と呼ばれる、子ども用品のデパートのような施設です。

この中に、わたしが働く会社のキッズ店舗が入ることになりました。

ここは、カラフルなインポートウェアやグッズが並ぶ、今ではよく見かけるキッズインポートショップの、先駆けのようなお店です。

もっとも、この施設は長くは続かず、やがてなくなってしまいます。

その場所には後にタワーレコードになるのですが、それはもう少し先の話です。

こうして、このキッズの文脈とカジュアル店舗が合体したお店が、宮下公園の向かい、渋谷の明治通りから少し入った場所に移転してきました。

それを受け、わたし達アルバイトは、人員補填のため、ローテーションでそのお店に立つことになります。

 

【 進化したカジュアル 】

このお店のラインナップは、日本で依然人気だったヘビーデューティーなアメカジとは違い、今風のアウトドアライクなものが中心でした。

後になって知ったのですが、当時、入谷にあったインポートメーカーの商品が多く入っていたようです。

例えば、グラミチのクライミングパンツ。

これはなぜかスタッフのほとんどが持っている、不思議なカジュアルパンツでした。

チャムスもまだ今のようなブランドではなく、スウェット素材のスタンドカラーのプルオーバーと、スウェット素材のベレー帽くらいしかありません。

新世代のスウェットメーカーという印象で、当時は一本気な雰囲気を感じていました。

ほかにも、オーバーランドのバッグ。

黎明期だったテバのスポーツサンダル。

そしてビルケンシュトック(当時はバーケンストックと呼ばれていました)。

さらに、コギャルの定番になる前のイージースミスのゴツい靴下なども扱っていました。

ここに来るお客さんは、キッズの商品を扱っていることもあってか、自分のお店とは違って、ワイワイとした気さくな接客が基本でした。

普段は格好をつけて店に立っていましたから、それがどこか小っ恥ずかしくもあります。

そこの女性スタッフは、こうしたフレンドリーな接客がとても上手でした。

明るい雰囲気で接客を終え、お客さんは楽しそうに帰っていきます。

そんな様子の中、照れくさそうに店に立っているわたしの方が、きっと恥ずかしく見えたでしょう。

そこの店長さんは、かつて「めちゃくちゃ怖い」と先輩アルバイトたちから聞かされていた、社内でもレジェンド的な大先輩でした。

けれど、その頃にはすっかり丸くなっていて、わたしの様子も見透かされていたようで

「(元の職場と)全然違うでしょう」

そう言って、ニコニコと優しい笑顔を向けてきます。

いや、本当にその通りです。

接客のスタイルもさまざまで、郷に入れば郷に従え。

そう言い聞かせながら、わたしはカチコチになりながら、フレンドリーな接客に励むのでした。

 

【 二つの顔 】

通常のお店に戻ると、週に何度かはクロージングコーナーに立たせてもらいました。

前日はカジュアル店舗で気さくに振る舞い、次の日はクロージングでクールな店員に徹する。まるで二重人格のように、店員という役を演じ分けていた気がします。

どちらも好きな洋服のジャンルだったので、それはそれで楽しい経験です。

また、クロージングに立つときには、年長の社員さんが「代官山に行くぞ」と言って、例のフランスのブランド店に連れて行ってくれることもありました。

ここはさらに別世界で、高級店といった雰囲気です。直接店に立つわけではありませんが、接客業の神聖な場所に立ったように感じました。

メンズとレディース

カジュアルとクロージング

フレンドリーとクール

こうしてわたしは、店員という仕事の奥行きを、少しずつ知っていったのでした。

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