1994|渋谷・原宿「新しい仲間たち」
【 渋谷店のアルバイト 】

一緒に入社した、スタイリストを目指していた同僚(先輩)は、少しずつ本来の仕事が入るようになっていました。

ある日、彼が「スタイリングを担当した」と言って、一冊の雑誌を持ってきました。それはファッション誌ではなく、少女向けの雑誌でした。

はっきりとは覚えていませんが、彼が担当したページだけが、大人っぽくって、雑誌の中でも異質なほどスタイリッシュに仕上がっていました。

ファッション誌であれば当たり前の光景ですが、別ジャンルの雑誌で見ると、スタイリングの力というものを強く感じますね。

こうして彼が忙しくなってきたことで、渋谷店にもアルバイトを入れようという流れになりました。

そんな新しいアルバイトはすぐに決まりました。

ふたつ年下の男性で、愛嬌ある可愛らしい顔立ちと、人懐こい性格の持ち主です。上下関係のある環境にも慣れているようで、人情味もあって、自然と周囲に溶け込むタイプです。

そのため、渋谷店の先輩たちからも、すぐに可愛がられるようになりました。

その一方で、どこか吹っ切れたところがありました。

先輩の無茶振りにも怯まず、むしろ相手が驚くような返しをしてしまう。しかも本人は、それを楽しんでいるようでした。

度胸があるというより、この世界に必要以上の執着がない。そんな強さを持っていました。

社員旅行で那須のコテージへ行き、みんなでバーベキューをした時のことです。

彼が先輩から氷を服に入れられて、「冷たっ」と言っていじられてたとき、突然、彼はふざけて、側にいた社長の背中に氷を入れました。

一瞬、先輩は「えっ」って感じで呆気に取られていました。

ところが彼は、咄嗟に遠くまで逃げると、人懐こい笑顔を浮かべながらニコニコしていました。

結局は社長に捕まり、発泡スチロールのフタで頭をパコンと叩かれていましたけど……

そんな少しヤンチャな愛嬌も、彼の魅力だったのです。

 

【 原宿店のアルバイト 】

渋谷店にアルバイトが入ってから数か月が過ぎました。

わたしはほとんど原宿店にいたため、後輩ができたという実感はあまりありませんでした。

そんな頃、原宿店の店長が経理業務も兼任することになって、お店に居ない時間も増えてきました。そうなると原宿店にもアルバイトを入れようという話が持ち上がりました。

もともとは男性スタッフを採用する予定でした。

ところが、わたしがひとりで店に立っていたある日、一人の女性が履歴書を持ってやって来ました。

話を聞くと、都内の化粧品店で店長を務めていたそうです。そのキャリア通り、とてもしっかりした印象です。

わたしが社長に伝えると、すぐに面接が決まり、そのまま採用となりました。

彼女は普段、ほんわりとした話し方で周囲を和ませていました。

けれど、裏方の仕事はあまり好きではなかったようで、わたしの作業仕事が減ることはありませんでした。

その一方、店に遊びに来る先輩たちからは、とても可愛がられて、気がつけば原宿店は以前にも増して人が集まる場所になっていました。

余計な気を使って、若干内向的なわたしとしては、この時期(いや、その後も)本当に彼女に助けられました。

二人とも自分の世界を持っていて、後輩というより仲間に近い存在だったと思います。

結局、わたしが本当の意味で部下らしい部下を持つのは、まだまだ先の話になりそうでした。

 

【 ひとりの先輩 】

定期的に開かれる飲み会には、いつも中心にいる先輩がいました。

その先輩は、誰とでも分け隔てなく接する人で、年齢も立場も関係ありません。

わたしの友人たちも遠慮なくツッコミを入れていましたし、それを全く気にも留めずに、自分の興味に素直な人です。そんな軽やかな先輩は、わたしたちからも好かれていました。

その先輩はアパレルメーカーから雑誌ライターへ転身した人で、渋谷店の先輩、最初に事務所をシェアしていた先輩とは、高校の同級生でした。

 

【 大学生の弟 】

そして、その先輩には、わたしと同い年の弟がいました。

彼は先輩とは対照的で、当時のわたしの周囲では珍しいほど真面目な大学生でした。

夜遅くなると車で送ってくれたり、アメリカ買い付けの運転手を手伝ったりと、自由人ばかりだったわたしたちの面倒を見るような存在でした。

もちろん、こうした地に足が着いた人は少なかったですから、先輩たちからも信頼され、可愛がられていたのでしょう。

ある日、そんな彼が、大学卒業後はこの会社でアメリカ駐在のバイヤーとして働きたいと言いました。

当時のアパレルは、海外で活躍するポストも珍しくありませんでした。

しかし、コスト面などの事情もあって、その希望はすぐには叶いませんでした。

それでも彼は大学卒業後、この会社に加わり、一緒に働く仲間になりました。

気が付けば、会社には新しい顔ぶれが次々と増えていました。

増えたのは、部下というよりも、それぞれ癖のある仲間たちでした。

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