
【 ベテランスタイリスト 】
原宿店が始まってからというもの、店にはたくさんのスタイリストが立ち寄ってくれるようになっていました。
大手ではなかなか貸してくれないような緊急のリースや条件が厳しいテレビ関係の案件。
こうしたリースにも、できる限り柔軟に対応していたからです。
もちろん、公私ともに仲の良いスタイリストも多く、次のリースまで時間が空いたときや、特に用事がなくても、ふらっと顔を出してくれる人がいました。
雑談をしながら、長く滞在していく人も少なくありません。
聞き上手な女性店長の、ほっこりしたキャラクターも大きかったと思います。
気がつけば原宿店は、渋谷店の系譜を受け継ぐような、自然と人が集まる店になっていました。
そんなある日、ひとりのスタイリストが店に立ち寄ってくれました。
先輩たちとも馴染みのある人物で、なぜかみんな、自然と敬語で話しています。
どう見てもベテランであることは間違い無さそうです。
とうやら彼は、雑誌をメインに活躍しながら、ライター業もこなすスタイリストでした。
話しているうちに、彼とわたしが同い年だということが分かりました。
細かい会話の内容はあまり覚えていませんが、不思議なほどすぐに意気投合していました。
すると彼は、唐突に言いました。
「今度、合コンしようぜ」
「えー、いきなり!」そう思ったのに、なぜか嫌ではありませんでした。
むしろ、その唐突さが…距離が一気に縮まった気がしたのです。
こうして、わたしは「それなら一席、持ちましょうか」
そんな気持ちになっていました。
【 メンバー集め 】
当時の合コンというのは、彼氏彼女を探す場というより、どちらかと言えば懇親会の口実に近いものでした。
もし結果として付き合うことになれば、それはそれです。
基本は、軽いノリで集まって飲む。
そんな空気感がありました。
店によく立ち寄ってくれていた“大御所スタイリスト”のアシスタントの女の子がいました。
同じ下っ端同士、ちょくちょく話す仲だったので、彼女に合コンの話を持ち掛けました。
すると彼女は驚くほどあっさり
「いいですよ」
と返事をしてくれました。
それだけで話がまとまってしまったのが、いかにも当時らしいのですが……
男性陣も数名はすぐに決まりました。
ベテランスタイリストの彼。
そして、フランスの店に出向していた元同僚で、今はスタイリストのアシスタントをしている友人。
さらに彼の“川崎チーム”の仲間たちにも声をかけました。
【 年上の友人 】
わたしはもうひとり、ぜひ呼びたい友人がいました。
彼はわたしの二つ歳上です。
渋谷で働いていた頃からの友人で、近所の並行輸入のセレクトショップに勤めていました。
以前、ビンテージショップに行った友人も働いていた店です。
わたしと彼は、どこか通じ合うものを感じて、すぐに仲良くなりました。
界隈でも珍しい、185cmを超える高身長だったことも、距離が縮まった理由だったかもしれません。
さらさらのロン毛。
ビンテージやブランド物のジュエリーをさらりと合わせて、足元はビルケンシュトックのアリゾナ。
それがやけに爽やかに見える人でした。
趣味はサーフィンで、インラインスケートは、彼から譲ってもらったものです。
アクティブかつ、わたしの持っていないものを、何でも持っている。
そんなふうに感じてしまうほど、余裕のある雰囲気がありました。
飲み会の話をすると、彼は快く参加を決めてくれました。
しかも当日は、近所の大手セレクトショップで働く同級生まで連れてきてくれたのです。
【 彼の働くお店 】
彼が勤めていたその店は、ラルフローレンの品揃えがとにかく充実していました。
渋カジの亜流で「キレカジ」なんて言葉がありましたが、あの空気を作った店のひとつだったと思います。
ワンポイントのオックスフォードシャツや、パッチワークのパンツは当時かなり売れていたはずです。
一方で、レスポやエスプリなど、女子高生に人気のアイテムも扱っていました。
それなのに、玄人がうなるようなビンテージの掘り出し物が何気なく店頭に並んでいたりする。
とてもバランスの良い店でした。
わたしがその店を初めて知ったのは、高校生の頃です。
当時は原宿ラフォーレ前の交差点近くにありました。
見たこともない配色のニューバランス。
まだ日本に入ってくる前のLL Beanの服。
何もかもが新鮮に映ったのを覚えています。
店が渋谷へ移転してからは、わたしはよく通いました。
ノースフェイスの80年代のダウンベスト。
ROOTSのアースシューズ。
ビンテージスニーカー。
(そう言えば、エアレイドもここで買いました)
ティファニー×ロレックスのラインナップも充実していて、今思えば「頑張って買っておけば良かったな」と思うのですが、きっと性格的にすぐ手放していたでしょう。
だから拝めただけでも御の字です。
界隈でも有名なオーナーと、それを支える彼。
二人は店の“顔”になっていました。
このまま、ずっと続くのだろうと思っていましたが、ちょっとしたお家騒動があったとかで(詳しくは知りませんが)、彼は後にオーナーと袂を分かつことになります。
それは、まだ世間知らずだったわたしにとって、初めて「大人の事情」を肌で感じた出来事でした。
……まぁ、それは少し先の話です。
【 大宴会 】
さて、話を戻します。
合コンの会場は、中目黒の居酒屋「藤八」の座敷になりました。
内容は正直ほとんど覚えていません。
ただ、とにかく楽しかった。
そのことだけは、なぜかはっきり記憶に残っています。
二次会は藤八の近くのカラオケに流れました。
そこでもさらに盛り上がり、気づけば夜はとっくに更けていました。
この夜をきっかけに、ベテランスタイリストの彼と、スタイリストアシスタントの友人は急速に距離を縮めていきました。
数年後、友人はスタイリストになり、やがて自分のブランドを立ち上げていきます。
あの夜、同じ座敷で笑っていた彼が、いつの間にか“名前のある人”になっていました。
二つ歳上の友人もまた、あの店のゴタゴタを経て独立し、のちにオーナーになります。
今頃はきっと、次のステージに向けて、軽やかに人生を楽しんでいるはずです。
一緒に参加してくれた先輩も、そのセレクトショップで上の立場になり、店の顔のような存在になっていきました。
会う事はほとんど無くなりましたが、その時はいつも、こちらのことを気にかけてくれる人です。
そして、合コンに協力してくれた彼女も、いつしか有名スタイリストになっていました。
あの夜の座敷には、まだ何者でもない人間ばかりが集まっていました。
けれど気づけば、わたし以外の全員が、それぞれの場所で大きくなっていったのです。
まぁ、次はわたしの番…と言いたいところですが。
わたし自身も、ベテランスタイリストの彼と知り合ってからは、彼がすすめる洋服やグッズを一緒に買うことが増えました。
それらは大概、カリフォルニアイデオロギーに準じた、ニッチで面白いものばかりでした。
そうして、わたしのアイデンティティは静かに形成されていった。
けれど当時のわたしはまだ、流行りの服を追いかけているだけの、空っぽな自分にうんざりしていました。

