
【 スーパーモデル 】
94年、95年頃は、ゴージャスなスーパーモデルブームも少し落ち着いて、個性的なモデルたちが注目されるようになっていた頃です。
女性誌では、そんな彼女たちのオフショットを集めたような特集がよく組まれていました。ランウェイとは違う、自然体の普段着姿に、わたしは強く惹かれていました。
もちろん、「綺麗だなぁ」と見惚れていたのもあります。でも、それ以上に魅力を感じたのはその着こなしにありました。
ラフなのに清潔感があって、気取った感じもありません。
そんな特集を見るたびに、「この雰囲気を少し取り入れてみたいな」と思うショットが何枚かありました。
一方、当時の海外メンズファッション誌に登場する男性たちは、どこか隙のないカジュアルスタイルが多く、もちろん格好いいのですが、どれも少し作り込まれた印象を受けました。
自然体という意味では、海外のストリートやワーカーたちの方が魅力的です。素直に味があって格好いいですからね。でも、それは彼らの生き方があってこそのスタイルであって、ファッションとして真似するものでは無いように感じました。
そんな中、わたしの心を一気につかむモデルが現れます。
【 赤髪のモデル 】
ある日、一冊の『STUDIO VOICE』が目に留まりました。
表紙には、赤いショートヘアに鼻ピアスをつけた女性が、膝を立ててあぐらをかき、こちらを真っすぐ見つめています。
思わず手に取ると、彼女は人気急上昇中の個性派モデル、シビル・バックでした。
当時のスーパーモデルといえば、美しく、品があり、どこか近寄りがたい存在という印象でした。
ところが彼女は違います。
まるで近所にいるトッポいお姉ちゃんが、そのままファッション誌に現れたような衝撃でした。
誌面にあった普段着は、使い込まれたスケートボードを片手に、8ホールのドクターマーチンを履き、まるでストリートキッズのような佇まいです。
それでいてランウェイに立つと、不思議なほど華があります。
そのギャップも含めて、わたしは彼女の放つ空気にすっかり惹かれてしまいました。
そして、そんな彼女を見ているうちに、わたしも髪をショートにして、赤く染めてみたくなりました。
パンクに憧れたわけでも、何かを主張したかったわけでもありません。
ただただ、そんな気分になったのでした。
【 イメージチェンジ 】
髪を赤く染めようと思っていることを社長に話すと、突然、
「じゃあ、俺は金髪にしようかな」
と言い出しました。
普段はウールパンツにシャツという、絵に描いたようなコンサバな人です。
その一言には、さすがに耳を疑いました。
それでも、「せっかくだから思い出作りをしよう」と盛り上がって、お店の向かいにあった美容室を予約し、ふたり揃ってイメージチェンジをすることになりました。
まずは髪を短く整え、強めの脱色剤で色を抜いていきます。
頭皮に薬剤が付かないよう美容師さんは慎重に塗ってくれましたが、それでも頭の中がじんわり熱を持つような、不思議な感覚がありました。
そして赤いカラー剤が入り、鏡の中には真っ赤な髪の自分が映っていました。
……とはいえ、出来上がった姿はシビル・バックのようなパンキッシュな雰囲気とはほど遠く、どちらかというと赤オニのコントのようです。
それでも、見慣れない自分を見るのは悪くありません。
半信半疑で坊主頭にした数年前とは違い、今回は髪型ひとつで気分まで変わるものなのだと感じました。
ところが、それ以上に衝撃だったのは社長の金髪でした。
知り合いがお店へ遊びに来るたびに、
「えっ、どうしたんですか!」
と驚かれるのは決まって社長です。
その後ろには真っ赤な髪のわたしが立っているのですが、次にイジって欲しそうな空気に見えるのが、なんとも居心地の悪い時間でした。
さすがに、この展開だけは、まったく予想していませんでした。
そして、憧れだったシビル・バックの赤髪も長くは続きません。
髪を洗うたびに色が抜け、一週間もすると鮮やかな赤はすっかりオレンジ色になっていました。
「オレンジに染めたんだね。」
そう言われるたびに、
「実は最初は真っ赤だったんです。」
と説明するのも少し野暮な気がして、
「そうなんですよー」
とだけ答えていました。
こうして、わたしの”シビル・バック計画”は、あっという間に終わってしまったのです。
【 雑誌ASAYANの取材 】
オレンジ色の髪にもすっかり見慣れた頃、知り合いの編集者から、
「タカハシくん、今度、雑誌の取材に出てよ。」
と声を掛けられました。
断る理由もなく快諾し、湾岸エリアにあるスタジオへ向かいます。
当日は、アバンギャルドなセレクトで人気だったショップの社長と、原宿店の店長になったばかりのわたし、そして編集の彼との対談でした。
テーマは来シーズンの流行について。
とはいえ、実際は雑談を交えながら近況を話すような和やかな雰囲気で、あとは編集の彼がうまく誌面にまとめてくれるという流れでした。
その合間に、それぞれの撮影があります。
スタジオで自分が撮られるのは初めての経験です。
ショップの社長も編集者も慣れたもので、自然にポーズを決めていきます。
ところが、いざ自分の番になると体はガチガチです。
「もっとリラックスしていいよ」
カメラマンにそう言われても、その”リラックス”が出来ないんです。
そう思うと、モデルという仕事が、どれほど難しいものなのかを少しだけ実感しました。
それでも撮影は無事に終わり、誌面には思っていた以上に格好よく載せてもらうことができました。
あのオレンジ色の髪だった期間は、ほんの一瞬でした。
けれど、その一瞬は雑誌のページの中に残り、今でもあの頃の自分を思い出させてくれます。
シビル・バックに感化されて始めた、ほんの短いイメージチェンジ。
結局、イメージ通りにはなれませんでしたが、あの頃の衝動や高揚感まで含めて、今では大切なリアル数ページになったワケでした。

