
【 ニューヨーク近郊のアウトレット 】
ニューヨーク州に入ると、マンハッタンを左手に見ながら、国道87号線を北へ向かいます。
しばらく走ると、やがて大きなアウトレットモールが見えてきました。
ここが、ウッドバリーコモン・アウトレットです。
ここは、これまで回ってきたアウトレットとは少し雰囲気が違います。規模が大きいだけでなく、他では見かけない高級ブランドのショップもいくつか入っていました。
その中でも、モールから少し離れた場所に、ひとまわり小さな建物がありました。
グッチのアウトレットです。
オープンにはまだ少し時間があったので、店の前で時間を潰し、開店と同時に店内へ入ります。
ボタンダウンのカジュアルシャツが、60数ドルで並んでいました。
衿芯が柔らかく、個人的にはそれほど好みのシャツではありませんが、ボタンには「GUCCI」の刻印が入り、色の出し方も微妙に洒落ています。
こういう品は、自分の好みとは別に、原宿店ではコンスタントに動いていました。
日本人が着やすいサイズのギンガムチェックを中心に何枚か買い、次はラルフローレンへ向かいます。
ラルフローレンも、この旅ですでに何店舗か目になっていました。
ここは比較的大きな店ですが、どこにでもあったアイテムが大量に陳列されています。また、他では見なかった一点モノばかりのラックもあったのですが、ロゴのワッペンやパッチ、プリントが盛り沢山のガチャガチャしたアイテムばかりで、買い付け向きではありませんでした。結局、数点の商品をピックアップするのみで、買い物を終えました。
このアウトレットはニューヨーク中心部からも比較的近く、社長も何度か来ていたのでしょう。
今回は他のブランドをあれこれ見て回ることもなく、買い付けを終えます。
いよいよ東海岸の後半戦は、ニュージャージー州を通り、ペンシルベニア州まで南下していきます。
【 ランカスター 】
次に目指すのは、ペンシルベニア州ランカスターにあるアウトレットです。
ここからは車で3〜4時間のロングドライブになります。
ランカスターといえば、ミリタリーウォッチや、世界初の電池式腕時計のベンチュラを作ったことで知られる「ハミルトン」の本拠地です。
もしかしたらハミルトンのアウトレットがあるかもしれないなぁ……
そんな淡い期待を抱きながら、山を切り拓いたような、木々に覆われたハイウェイ78号線を南下していきます。
ノンストップドライブの末に辿り着いたランカスターは、牧歌的な空気に包まれた、とても穏やかな町でした。
アウトレットも、これまで見てきたところに比べると、どこかコンパクトで、可愛らしい雰囲気があります。
ただし、期待していたハミルトンのアウトレットはありませんでした。
目的のラルフローレンも、どれも小粒で、「これは!」というものには出会えませんでした。
しかし、社長の話だと、ここランカスターはいままで回ったアウトレットとは違う経営なので、稀に面白い商品が出るのだそうです。
こうして、ランカスターの町からハイウェイへ戻る途中、ハミルトンの本社らしい建物を探してみましたが、結局見つけることはできませんでした。
今ならGoogleマップを開けば、すぐに場所を確認できるでしょう。
でも、あのとき見つけられなかったことも、悪くなかったと思っています。
街でハミルトンの時計を見かけるたびに、あのとき辿り着いたランカスターの、のんびりとした景色を思い出すからです。
【 買い物天国とリアル 】
ランカスターからは、フィラデルフィアを経由してニュージャージーを目指します。
次に目指すアウトレットまでは、再びロングドライブです。
せっかくの移動なので、買い付けの仕事にも繋げよう……
そんな理由から、途中でショッピングモールに立ち寄ることになりました。
今でこそ、日本全国どこにでもあるショッピングモールですが、当時の日本で複合商業施設的なものと言えば、百貨店くらいで、ショッピングモールなど、ほとんどありません。
だから、わたしにとって、アメリカのショッピングモールは、まさに買い物天国でした。
GAPでさえ、まだ日本に上陸していない時代です。
店内に入れば、見たことのないものばかり。
日本のインポートショップで見かけたことのあるブランドも、現地では、その何倍もの品揃えです。
スニーカーも同じでした。
大抵のモールには、フットロッカー、フットアクション、チャンプススポーツといった大型店が入っています。
しかも、それぞれの店でカラーやモデルが違います。
日本では見たことのないスニーカーが、あちこちに並んでいます。
もう、それだけで、ただただ楽しいワケです。
「これだけ珍しいものが豊富なら、買い付けもすごいことになるよなぁ」
当然、そう思います。
ところが、実際に見ていくと、少し違っていました。
日本で見ていたアメリカブランドとは、イメージどころか、内容そのものがまったく違います。
日本では、オーセンティックな定番アイテムが人気です。
ところが本国の店頭に並んでいるのは、もっと派手で、近未来的で、いろいろな味付けがされたものばかり。
正直、「何でこのブランドで、これ作っちゃうの?」と言いたくなるものまであります。
わたしがこれまで「アメリカブランド」の本来の姿だと思っていたものは、そのブランドのリアルではありませんでした。
日本のバイヤーは、この混沌とした品揃えの中から、日本風にチョイスしていました。
その結果、ブランドのイメージを保っていたり、時にはヒット商品を輩出したのでしょう。
最初からそうだったわけではないのかもしれないけれど、単に海外の商品を持ってくることではなかったのだと思います。
膨大な商品の中から「何を選ぶか」
その目利きとプロデュース力こそが、日本のインポートシーンを成り立たせていた理由のひとつかもしれませんね。
【 フィラデルフィア 】
車はいよいよフィラデルフィアに入りました。
ハイウェイの少し高い位置から見下ろすフィラデルフィアは、ボストンとはまた違った、落ち着いた品のある街並みに見えました。
「ちょっと街に降りてみようか?」
社長がそう言って、ハイウェイを降ります。
車で街を流してみると、コロニアル調の建物があちこちに残っていて、どこか穏やかで、平和な街という印象でした。
もっとも、フィラデルフィアをそう感じたのは、このときが最初で最後だったかもしれません。
その後、何度か再訪することになるのですが、その頃に見た街の印象は、むしろこのときとは正反対でした。
このとき車で回っていたエリアには、思ったほどお店もありません。
「そろそろ次に行こうか?」
そう言って、再びハイウェイを探します。
その途中、左右に広がる大きな階段の先に、ローマ神殿のような立派な建物が見えてきました。
どこかで見たことがあるような、妙に懐かしい感じがします。
でも、そのときは、それが何の場所なのかまったくわかりませんでした。
それから数年が経ち、映画「ロッキー」を観ていて、ようやく気がつきました。
あの階段だったのです。
まさか、何も知らずに通り過ぎていた場所が、映画の名場面だったとは。
そんなことを知ったのは、ずっと後のことでした。
その後、再びハイウェイに入り、ニュージャージーを目指します。

