
【 坊主頭 】
働き出して数ヶ月、牛歩並みのスピードですが、わたしは少しずつセレクトショップの店員らしい成りになってきたと思います。
そんなある日、バイトの友人(先輩アルバイト)がわたしに「坊主頭にしなよ、カッコいいよ」って言い出しました。元々、冗談が好きな人だし、ニヤニヤしながらこの話題を持ち出すものだから、からかっているのか?とも思いました。確かに、近所のセレクトショップの先輩で、ひとり坊主頭の人がいましたが、その人は端正な顔立ちなので、別次元でカッコいい雰囲気に仕上がっています。
それから、友人は事あるごとに「坊主頭にしなよ、カッコいいって」と言うものだから、だんだんと、そんな気になって、とうとう坊主頭にすることに決めました。
当時、現渋谷のタワーレコードの並び(渋谷駅寄り)に床屋があって、そこで坊主にしてくださいってオーダーしますが、床屋の主人に「何か悪さでもしたの?」って聞かれます。まぁ、こ綺麗な格好した大人が床屋に来て「坊主にしてください」って言うもんだから、何かやらかしちゃったくらいしか,思い当たりませんね。
こうしてバリカンの刃の長さをセットすると、名前の通りわたしの頭髪をバリバリ刈り始めました。
【 坊主の足掻き 】
今でこそ、セレクトショップに雰囲気ある坊主頭のスタッフがいますが、当時、渋谷界隈の洋服屋で坊主頭なんて、わたしと近所の先輩くらいです。坊主頭をどうオシャレに仕立てるなんて、まぁ、前例が無い分、ハードルが高いワケです。
先輩みたいに美形では無いし、今みたいに黒縁メガネで雰囲気良く見せる発想もありません。さらに眉毛も薄くて、ヒゲもチョロっとしか生えない体質でしたから、笑顔にしていないと怖くて怪しい人です。
結局、左耳にピアスを3つ空けて、ファッション人アピールを入れつつ、基本的にはキレイめのトラディショナルな格好をするよう心掛けてました。
カジュアルにしていると、老けた高校球児の休日みたいになってしまいますからね。
しかし、わたし自身は坊主頭とオシャレのイメージが全く結びついておらず、試行錯誤の日々が続きます。
【 新しい友人たち 】
ショップ内のもうひとりの友人(後輩アルバイト?)は、定期的に西麻布のクラブに通っています。
ある日、同じ歳のショップ仲間達で、そのクラブに遊びに行こうという計画が持ち上がりました。
やはりクラブは夜遅くから始まるので、みんなでご飯を食べてから向かうことになって、そこで、はじめて友人(後輩アルバイト)の同級生であるショップ仲間と合流します。
彼らは、それぞれ渋谷や原宿にある有名どころで働いており、(同じ歳でも)こうも醸し出す雰囲気が違うのかと、愕然としました。
とはいえ、みな明るく気さくな人ばかりで、すぐに仲良くなりました。
【 マリモのジレンマ 】
彼らの通っている西麻布のクラブは城のようなビルの地下にありました。月に数回、渋谷にあるセレクトショップの先輩達が企画しているイベントです。このイベントは主にディスコクラシックスが流れていて、懐かしくも心地いい空間です。
もともと通っていた友人達は、ここでの遊び方を熟知していて、一緒にいて、夜遊びって楽しいなぁと、本気で感じます。身なりは90年代なのに、中身は映画サタデーナイトフィーバーです。
時々友達が寄って来ては、わたしの坊主頭を「マリモ」って呼んで頭を撫でくり回して面白がっていました。最初のうちは、場も盛り上がって嬉しいんだけど、どこかで茶化されているような、複雑な気持ちが湧いて来ました。これは単に、自分の坊主頭を良いと信じられなかったからです。どうしても三の線(お笑い担当)になってしまいますからね。
しかし、友人達はわたしのその乗り切らない表情が面白く映るようで、さらにわたしの頭を撫で回して来ます。すると、わたしの方も、その期待に応えたくなって、反射的にそのノリを受けて面白おかしく反応してしまいます。
そんなつもりで、坊主にしたわけじゃなかったのに。
まぁ、いじられているうちが華で、有り難いんですけどね。その時は本当に楽しかったですから。
しかし、自信がないまま、流されている自分に対して、モヤモヤした感情が湧き上がっていたんですね。
ただ、ひとりの友達(仏ブランドにいる先輩バイト)は、わたしのそんな複雑な気持ちを察してくれており、そのことには、必要以上に笑わず、必要以上に踏み込みもせずに、普通に接してくれました。
これをきっかけに、その後も彼と一緒にいる時間が増えていったのです。
【 大学を去る 】
こうして知り合った友人達は、一人暮らしをしながら洋服屋でアルバイトしている人も多く、また実家暮らしの人も、しっかりしたビジョンを持って、大人として自立して見えました。それまで、わたしの周囲は学生ばかりで、まずは卒業というレールが敷かれていますから、余計にそう映りました。
この頃は、時々大学へ行って授業を受けたりしていました。すると高校まで真面目だったような男子学生が教授に反抗的な態度を取っていて、それが幼く見えました。当時はその歴然とした違いを見て、早く友人達のように自立した大人になりたいと思いました。きっと、あの大学生の現在は社会に出て立派な職業に就いているでしょうが…
こうして、どこかに未練を感じていた大学生活も、完全に終了させる決心がつきました。
これが正しい判断だったのかは、未だに分かりません。
そして思います。辞めるからには、彼ら以上に知識を身につけよう、そして、沢山の経験を積もう、そう決意しながら、ザラザラした坊主頭を撫でるのでした。

