
【 アメリカンラグとレプリカジーンズ 】
ビバリーヒルズエリアから、車でちょっと移動して、アメリカンラグというセレクトショップに向かいました。
ここは、洋服屋界隈の人がロサンゼルスに行った際には、立ち寄る人も多い人気のセレクトショップでした。
ワンフロアの広い店内には、古着と新品がぎっしり置かれています。
レディースには、上質な生地の古着のワンピースがたくさん掛かっています。
そして、奥の島台には、リーバイスのビンテージレプリカが山積みされていました。
アメリカ製の糊が付いたノンウォッシュジーンズで、明らかに古い時代のレプリカから、ニッチな年代のものまで、数種類ありました。
値段は100ドル超えで、どれもレングスが長かったので、買わなかったのですが、あの時、買っておけば良かったなぁ〜って、いまだに思います。
まだ、日本でもリーバイスのビンテージレプリカが、ほとんど無い時代でしたから、わたしも、「この値段だったら、味の出た本物でいいじゃん」なんて、思っていました。
振り返れば、そんなものばかりです。
【 ヤンキースのキャップ 】
アメリカンラグを出て、車を停めているところまで、社長とふたりで歩いていると、向こうから、何故だか目を引く青年が歩いて来ました。
彼はロックTに、インディゴがほどよく色落ちしたデニムを穿いて、日に焼けたクタクタのニューヨークヤンキースのキャップをかぶっています。
また、控えめなシルバージュエリーに、ローテクのキャンバススニーカーを合わせているのもオシャレに感じました。
ショップのスタッフは別として、この旅で、そんな雰囲気の人を見るのははじめてでした。
アメリカに来るまでは、サラっとこんな着こなしの人がゴロゴロいるかと思っていましたが、全く間違いでしたね。
そんな彼を見ると、ロサンゼルスなのにヤンキースのキャップをかぶるんだ、と感心するとともに、こんないい味のベースボールキャップは、いったいどこに売っているんだろう……そう思いました。
ボストンで見た、レッドソックスのキャップをかぶったビジネスマンもそうでしたが、彼らのかぶるキャップは、ヒップホップ系の本格的なキャップとは違い、ラルフローレンで売っていそうな、ローキャップです。
アメリカに来て、メジャーリーグ型のキャップはスポーツ店で見かけましたが、メジャーリーグのローキャップを売っている店は見つけられませんでした。
その後、何年も欲しいなぁと思い続けて、結局どこのキャップなのか判明するのですが……
案外、身近にあったのですけど、それはまだまだ先の話です。
【 フレッドシーガルというお店 】
アメリカンラグと同様、洋服屋の知人たちがロサンゼルスで立ち寄るセレクトショップのひとつに、フレッドシーガルがあります。
次はそこに向かいました。
ここは蔦の絡まった二階建ての大きな建物で、店内は一軒家のような、気持ちの良い空間です。
若干サイケデリックな雰囲気のアメリカンラグとは違い、インテリアショップのようなフレッドシーガルは、明るく爽やかなイメージです。
店内には、インテリア小物と一緒に、コンサバティブな洋服が並んでいます。
また、二階には後染めでカスタムされた古着のシャツなどが、なかなか高い値段で並んでいました。
アメリカ人にも、「こうした切り口が通用するんだな」と、少し意外な感じもありました。
なぜなら、アメリカ人は自分たちでDIYして、カスタムしちゃうものだと思っていましたからね。
【 お土産店と英語の壁 】
続いて、チャイニーズシアター向かいの路地にある、お土産屋を見に行きました。
この一角には、お土産屋が数軒並んでいて、まぁオシャレな雰囲気ではありませんが、何か面白い買い付け商品がありそうな、そんなお店たちです。
店内には、安価な電化製品やファッション雑貨、ミュージシャンや映画のTシャツなどが、買いやすい価格で並んでいます。
しかし、慎重にならないと、日本各地にある輸入雑貨店と似たような商品構成になってしまうので、「雰囲気が良いからコレを買おう」という流れにはなりませんでした。
そんな中、レジの後ろに、例のスポーツウォークマンが陳列してありました。
わたしはこのタイミングしか無いと思って、反射的に手をあげて店員を呼びますが、その先、何と言っていいのか、英語が全く出てきません。
すでに頭は真っ白で、商品を指さすのが精一杯でした。
右? 上?
と、店員と身振り手振りで伝えながら、なんとか商品を出してもらいます。
しかし、今度は「これください」って何て言うのだろうと思うと、完全に思考停止です。
1週間以上もアメリカに来ていて、モノひとつ買えないのか……
「This, please」で充分通じたはずなのに、それすら出てきません。
ちょっとの間、沈黙が続き、店員さんもキョトンとしています。
結局、商品を指差して、自分の胸に手のひらをあてるのが精一杯でした。
そのジェスチャーのおかげで、念願のスポーツウォークマンを手に入れることができました。
それにしても、こんな簡単な英語が話せない自分が、何とも恥ずかしい……
自分の準備不足を、心から後悔しました。
【 思いがけない話 】
いよいよ、西海岸の買い付けも最後の夜を迎えました。
ホテルに戻って来ると、社長から突然、とある話を切り出されました。
「タカハシ、9月から数ヶ月、京都に行ってくれないか?」
どうやら、社長が心から尊敬している大御所デザイナーから、「京都店を一緒に出店しましょう」というオファーがあったようです。
そして9月から、京都の老舗百貨店内に店舗を出すことで話が進んでいるとのことでした。
当時の会社の中で、この依頼を受けられる人間は、わたしくらいしかいませんでした。
それに、社長と二人きりで来ている出張先で、いきなりそう言われると、「少し考えさせてください」という選択肢も、なんとなく無さそうな雰囲気です。
少し間をおいてから、
「わかりました」
と答えました。
その頃、同世代の渋谷や原宿界隈では、独立してブランドを立ち上げたり、自分のスキルで仕事を広げたりする人たちが増えていました。
周りがめまぐるしく前に進んでいるように見える中で、自分だけ東京を離れていいのだろうか?という、焦りのようなものもありました。
とはいえ、同時に、わたしにはこの選択しか残されていないようにも感じていました。
